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開発者インタヴュー VOX AC4HWR1

開発者インタヴュー VOX AC4HWR1

VOXハンドワイヤードシリーズが刷新されました。

これまでのハンドワイヤード・ACシリーズは往年のトーン回路や仕様を持ちながらも、現代的なニーズに合わせてチューニングされることでやむなく失われてしまった「ヴィンテージサウンド」がありました。今回は現代的なニーズ、仕様をキープしながらも「もう一歩」ヴィンテージACシリーズが持っていた魔法の様なサウンドを再現するためのアレンジが施されているとの事。

まずシリーズの先陣を切って入荷したAC4HWR1をチェックしましたが、確かにこれまでとは異なるオールド/ヴィンテージアンプのフィーリングが溢れています。
そこで株式会社コルグ/VOX開発チームの塩谷さんにお話を伺いました。

AC4HWR1商品ページはこちらから

今回のVOX AC4はこれまでのハンドワイヤード製品に比べて、かなりヴィンテージの雰囲気とサウンドが再現されていると思いました。そのあたりについて聞かせてください。

まずシングルパワーとは思えないパワー部分でのドライブ、コンプレッション、倍音に驚きます。パワー管はEL84が1本の「シングルプッシュ」ですが、とてもその様に思えないほど「有機的な」サウンドです。シングルと言われなければデュエット(パワー管2本)のプッシュプルアンプと勘違いしそうな程、直線的でなく、とても豊かなサウンドです。そこで質問なのですが、一般的なシングルパワー管アンプとこのAC4HWR1との大きな違いは何なのでしょう?

まずAC30のサウンドの特徴として、パワーアンプ部分でのドライブサウンド、いわゆる「EL84のドライブサウンド」があると思います。多くの愛用者がこのサウンドを求めてACシリーズを選んでくれていると思います。でも実は、パワー管がドライブする程のクランチ/オーバードライブサウンド状態に設定した場合、その前段にあたる「フェーズインバーター」でもドライブ/歪みが生まれています。フェーズインバータで発生するドライブ/歪みは、いわゆるプリアンプ回路で生まれるドライブ/歪み方とは違い、独特の倍音を持っているんですが、この音色もかなりACの個性に貢献しています。
ところで、このフェーズインバーターは2本もしくは4本のパワー管を使用するアンプの回路なので、パワー管が1本のAC4HWR1では構成上フェイーズインバーター回路を必要としません。しかしながら、AC15/30のあの倍音や質感などの特徴を引き継ぐために、今回はあえてシングルアンプにフェーズインバータ回路を組み込んでいます。これによりプッシュプル・アンプ特有の倍音を持たせているのです。またシングルアンプは2次倍音が強く、歪ませても「Fuzzっぽい歪み方」になりがちですよね?そこでAC4HWR1では2次倍音を相殺するために、プリアンプ回路やフェーズインバータ回路で生まれる歪みを調整しています。

なるほど。アンプの動作には必要のない回路でありながら「音色的には必須の回路」だから組み込んでいると言うことですね。これは古いアンプの回路をコピーするだけでは再現できないサウンドに大きく貢献していそうですね。

はい。それと、先ほど話題に上がったコンプレッションと倍音に関しては関係があって、それを作り出している大きな要素に電源回路があります。

60年代のいわゆる「ヴィンテージアンプ」のトランスは現代のアンプと違って電源回路が「弱い」んですよね。それ故に、真空管アンプの音量を上げて負荷をかけていき、いわゆる「音が歪む状態」になると電源電圧が落ちて、サウンドにコンプレッションがかかります。このコンプレッションにより音色が「丸くなる」ため、今度は耳障りな高域をフィルタリングする必要が最低限で済むんです。そういった要素の全てが、真空管によって生み出された倍音をそのまま出力する為にデザインされています。

特に今回のAC4ではノイズを抑えつつ、かつ電源が弱いヴィンテージアンプの様な挙動/動作になる様に電源回路を調整しました。これによりコンプレッションがかかりつつ、真空管らしい豊かな倍音を生み出しています。

なるほど。かなり興味深い話です。確かに音が刷新された印象が強く音に現れていますが、そんなアレンジが行われていたんですね。

もう一つ、このAC4HWR1では以前のモデルに比べると音量を下げた状態でも低音が豊かに感じました。スピーカーには特に変わった様子がありませんが…何か秘密がありますか?

シングルアンプはその特性上、アウトプット・トランスでローカットされてしまい、低域が削れてしまいます。そのローカットをなるべく起こさないようにアウトプットトランスの増強を行い、低音の再生能力を上げているんです。
また、このAC4のみの仕様ですが「VOXらしい音色」を殺さないように細心の注意を払いながら、スピーカー出力からパワーアンプ回路に少し負帰還(ネガティヴフィードバック)をかけています。実は1959年のVOX AC6アンプに負帰還を使った回路構成があったため、そこからインスパイアされました。これにより、低域と高域のバランスが良くなり、小型アンプながらも、どの音量でも音色のバランスが取れるように調整しています。

ACシリーズにネガティヴフィードバックですか…それはともすれば禁断の様な気もしますが(ACシリーズはネガティヴフィードバック回路を持たない事で有名)実際のサウンドを聞くと成功と言わざるを得ないですね。うーん色々と苦労された様ですね(笑)それも納得のサウンドです。

では続いて、プリアンプに関して教えてください。

AC4HWR1はAC30でいうところのNORMALチャンネルではなく、TOP BOOSTチャンネルのみを採用されています。

個人的には、これまでのリイシューACシリーズのTOP BOOSTチャンネルに関して、ともすれば攻撃的なサウンドにも感じていました。ギターとアンプだけ(直結)であれば全然問題ないですが、ブースト/ODペダルを繋いだりすると相性があまり良くない印象もありました。

ところがAC4HWR1では耳あたりがよく、ペダルとの相性も良い。それでありながらTOP BOOSTチャンネルらしいサウンドに仕上がっていると感じました。今回、プリアンプ部分での刷新はありますか?

耳あたりが良いのは前記した「電源変動によるコンプレッション」と倍音の出方による要素が大きいです。”良いヴィンテージアンプは耳に痛くないのにヌケがよく、倍音が豊かに再生される”という事を念頭に電源を調整して、攻撃的な音色をうまく呑み込んでくれるようになっています。

とは言いつつも、勿論プリアンプも今回のAC4のために調整しています。
基本はAC30のTOP BOOST回路ですが、アンプのサイズ/電力に合わせてゲインや低域を調整しています。前記した様にフェーズインバータ回路を搭載している点もこれまでのAC4とは違う点になりますね。

なるほど。全ての要素がトータルのサウンドに影響しているという事になりますね。

では、今回採用されたリヴァーブに関して教えてください。

フェンダー系の様にリッチなリヴァーブとは異なる、ともすればルームリヴァーブの様なスプリングの響きですが、ヴィンテージVOXのリヴァーブに感じられた「ちょっとショボい感じ?」はありませんね?リヴァーブユニットには何か秘密がありますか?

リバーブに関してはスプリングリバーブをFET駆動(AC4とAC10のみ/AC15と30はチューブドライブ)しています。これはチューブドライブ回路をそのままFETに置き換えただけのものになります。そのため、リバーブ駆動のためのインピーダンス変換が必要になるので、リバーブ・ドライブ用のアウトプット・トランスを搭載しているんです。実はこの回路を使うとトランス負荷による「ドライブ/歪み」がかなり付加されて、スプリングリバーブの音がメイン・シグナルと混ざった時にリバーブ感が際立った音色になるんです。これがリバーブの音が従来よりも存在感のあるサウンドになっている理由かと思います。

なるほど!ソリッドステート回路で組んで済ませても良い箇所でありながら非効率なトランスを通過させる事で、リヴァーブの音色を作り出しているという事ですね?それは「こだわり」ですね。付属のスイッチでON/OFFできるのも魅力的です。


他にも外観に関しても板厚が薄くなり、スマートで由緒正しくヴィンテージモデルに近づいていますが、サウンド面でも変化はありましたか?

今回のモデルはすべての板材にバーチ材を採用しました。さらにバッフル以外は薄い材を採用しています。これによって、キャビネットが響板のような効果を生み出し、広がり感のある音になっています。耳あたりが良いとい理由に関して電源と共にかなり重要に作用しています。

確かにフルアップで鳴らしても心地よくアンプが鳴っている感じがします。バッフルだけは厚いボードを使用しているんですね。興味深いです。

他に開発で力を入れた点や困難だった点、チェックしてほしい点などあればお聞かせください。

アンプ自体は非常にシンプルなため、それ故に各定数の選定や電源のセッティングが大きく影響するんです。なので、本当に各部の微調整に気を使いました。

チェックしてほしい点としては、あまり目立たない存在かもしれませんがLO INPUT是非、使ってみて欲しいです。LO側にプラグインするとHI側よりも音量が小さくなりますが、その分 GAINノブを上げてください。そうすると、特にストラトではハリのあるクリーンが楽しめるかと思います。

総じて、最近はモデリングアンプ/ライン機器も増えていますが、”アンプ全体から鳴る響のある音”もやっぱり良いな!と感じてもらえたら嬉しいです。

なるほど!大変興味深いお話をありがとうございました。

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サウンド面ではヴィンテージアンプを踏襲しながら回路的には刷新されたモダンアンプ
豊富な外部接続端子を備えているのも魅力

text Yoshiyuki Murata