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【村田ブログ】配信の「音」について考える

【村田ブログ】配信の「音」について考える

村田です。

最近とある「ライブハウス」から機材選定の依頼を受けて、いろいろやっておりました。そんな中で色々と発見がありました。ここで色々ご紹介していきたく思います。

配信の音決め/ミックスとその難しさ

昨今ライブハウスが当たり前のように注力しているのが「ライブ配信」です。コロナ渦の中、アーティストはもちろんですがライブハウスも思うように運営/集客することが難しくなり、特に日本のように「ライブ専門会場」として営業する場合は有観客ライブが行えない=営業ができない、という状況になります。ミュージックチャージ(入場料)だけでなく、ドリンク類の売り上げも会場にとっては重要な売り上げです。入場制限を設けるだけでも大変なのに、会場でアルコールなどの提供ができない、さらに会話もできない…このような状況で会場を維持していくことは難しいでしょう。

そんな中、会場側も策を講じ、無観客(あるいは有観客)ライブの模様を配信という形でライブストリーミングして「入場料」代わりに「視聴料」で運営を行うという方式もすっかり定着してきました。

しかしながら、アイソレートルーム(配信ミックス専用の防音室など)をもたないライブハウスにとって、ライブ中に配信用の音「だけ」をリアルタイムでミックスする事はなかなか難しいものです。なんといっても実際に会場内の音が鳴っている中で「その音とは別の」配信用のミックスを行わなければならないのです。

その場では感じられる会場の鳴りですが、配信された音ではその「ライブ感」が、もの足りない事も多いとおもいます。また、あまりに「ライブすぎる鳴り」では音的に不満も生まれます。スタジオ一発録りのような音で配信しても、チケット代を払ってまで視聴しようというお客さんは少ないと思います。もちろん映像も…定点カメラを何台も用意しても、ただヴューが切り替わるだけだと、あまり面白いものではありません。ではどうやって面白くすれば良いのか… という事を考える日々でした(今も考えていますが)

もちろん、お金をかけてスタッフをたくさん集めて、機材も色々使えれば、アイディアを絞ってより良いものを作れると思います。でも予算を作ることは簡単ではありません。

そんな中で個人的に「これはあった方が良いな」と思う機材が2つありました。

一つはアナログミキサー、もう一つがノイズキャンセリングヘッドフォンです。

アナログミキサー

当店でもすでに好評をいただいているKORG MW1608というミキサーがあります。

このミキサーはアナログのチャンネルストリップ(プリアンプやEQ、ボリュームセクション)とデジタルのエフェクト部分がハイブリッドされています。

このミキサー部分がまず、素晴らしい。なんというか、音が立体的なのです。昨今のライブハウスはそのほとんどがデジタルミキサーです。その信号をそのままデジタルで配信すると、どうしても音がペッタリとした、面白みのない音になります。ライブ会場ではその音がメインスピーカーから聞こえるので「空気を通って」聞こえますが、楽器が鳴っていない部屋で聞く配信では、そうはいかない。

そこで、メインミキサーからの信号を一度MWに通す。それだけで、音にある種の「クセ」が加わります。それはサチュレーションであったり、いろいろな要素なのですが、その「クセ」が音楽的であれば、それだけで平面的な音を立体的に聞かせることができます。MWのヘッドアンプとフェーダーボリュームを通過した音はなんとなくシェイプされた「いい感じ」の音になります。そして各チャンネルに配備された強力なコンプ。このツマミが一つだけのシンプルなコンプがどれほど配信時に威力を発揮するか… これを任意の位置にセットし、ガンガンにEQを施してライブな聴こえ方に仕上げる事で、音が際立ちます。

さらに、会場の鳴りをステレオマイクなどで集音し、その音もMWに立ち上げます。メインスピーカーが鳴っている会場の音、です。この音は自分がその会場で聞いている音に近い質感にしてやる必要があります。その方が「らしい感じ」になるからです。メインミキサーの音とこのマイクの音をMWでミックスして配信してやることで、配信の音のクオリティーはワンランク上がります。この配信用のミキサーというのは、本当に重要です。当店の店頭でもお試しいただけますので是非、一度実際にそのクオリティーと音に触れてみてください。ミキサーを「ただボリュームを調整するだけの機材」だと思っている皆さんは考えを改めるべきかもしれません。楽器に近い存在だと思います。

ノイズキャンセリングヘッドフォン

こちらもKORGから発売されている「NC-Q1」というヘッドフォンを推奨します。なぜこのヘッドフォンなのか?このNC-Q1は、クラブやライブハウスなどの大音量で過酷な環境の中で耳を保護しつつ、ノイズのない高解像度のサウンドをモニタリングできるようにした全く新しい種類のヘッドホンです。これまでのノイズキャンセリングヘッドフォンがリスニング用であるとすれば、このヘッドフォンは演奏家/ミュージシャン向けのだと言えます。ライブ会場で配信用のミキシングを行う際に最も難しいのが「現場で鳴っている音と配信用の音の区分けが難しいところ」にあると思います。ヘッドフォンをして配信用のミックスをしても、どうしても「会場の音」が耳に聞こえてしまう(&その場で音を体感してしまう)ので、その場で聞いている音と「配信の音」に差異が生まれてしまいます。これは熟練のミキサー(オペレーター)であればクリアできることかもしれませんが、ライブハウスのオペレーターやカメラマンにこのレベルの仕事は要求できません。でも、会場の音をなるべく遮断して配信ミックスのサウンドだけをモニターできれば、どれほど楽でしょうか。一般的なカナル型のヘッドフォンではライブ・サウンドをしっかり遮音するのは難しく、一般的なノイズキャンセリング・ヘッドフォンではその効果と音質に不満が残るものも多いと思います。

NC-Q1は最先端のアクティブ・ノイズ・キャンセリングにより周辺からの音の減衰が本当に強力です。大音量&ラウドな低音の中でプレイしなければならないDJやドラマー、そして今回の様にライブの音量の中でミックスを行うフロント・エンジニアの皆さんには必需品になると思います。もちろんギタリストがアンプやキャビネットへのマイキング・ポイントを探る際にも威力を発揮します。アンプの前に立ちながら、極限までスピーカーからの音を抑え、マイクが拾った音に集中できるからです。

このミキサーとヘッドフォンの組み合わせは、配信環境においてかなり有効だと思います。もちろん録音や一つの部屋の中での録音においても同じです。もちろん、音楽制作においてもノイズレスヘッドフォンは強力な味方になります。なんといっても製作時に「余計な音」を遮断することで「音」に集中できます。ヘッドフォンに関しては皆さんが一家言を持っていると思いますが、今回のように「遮音+高性能なモニター」が必須の現場において、このNC-Q1はかなり強力に「使える機材」になり得ると感じました。こちらも店頭でお試しください。

このような経験を踏まえた上で、配信に関してのご相談も承っております。

機材を揃えただけではクオリティーが出せない。その事にお気づきの皆様は是非、ご相談ください。