【連載コラム】USAGI NO MIMIの楽しみ方 (20代後半男性の場合 その3)
みなさまいつもありがとうございます。渋谷店ニシキドです。
前回まではジャンルは違えど”スタジオの音”や”空気の音”というテーマでコラムを書きました。
今回はこれまでのテーマとはまた違った形になりそうですがタイムリーに”この人”をピックアップして色々と書いていきたいと思います。
Jack Garratt
ジャック・ガラットさんです。以前ルーパーに関するコラムでも少しだけですが取り上げました。
現在、僕が個人的に一番注目しているアーティストかもしれません。新しい世界を見せてくれるというか…刺激を与えてくれるというか…ゆくゆくはフーチーズYouTubeチャンネルでの”ルーパーでひとり遊びシリーズ”も彼くらいドラマティックな次元にまで持っていきたいですね…!!
Jack Garratはどんなアーティスト?
ますはこちらの映像をご覧ください。
1991年生まれ、UKのバッキンガムシャー出身。母親は小学校の音楽教師で、父親は警察官。両親ともにかなりの音楽好きという環境もあり、12才の頃から曲を作り始め、ピアノ、ギターをはじめ様々な楽器に触れます。当時はdaft punkに憧れてそれっぽいトラックなど作って遊んでいたそうです。
彼が影響を受けたと公言しているアーティストは
Here’s more people I love who have inspired me since I was young, and then again when I was less young X pic.twitter.com/0KsvSdBTem
— Jack Garratt (@JackGarratt) January 19, 2016
なるほど。Jackson Browne。Tom Waitsなんかはルックスからもわずかにエッセンスを感じるような気もします…Kanye West、Common、D’Angelo、Flying Lotus…やはりR&B、Neo-Soul。(SOULQUARIANSにも繋がってきますね。)
楽曲の中でもBilalっぽいメロディーや歌い回しを感じます。バックの演奏/打ち込みにも言えますが、彼のもつどっしりとしたグルーブ感、タイム感は完全にその手の音楽からきているはずです。わかりやすいのが下のスタジオライブです。こちらはGallantとJanet Jacksonの「I Get Lonely」をプレイ。楽曲の魅力を理解しつつ独自の解釈を落とし込み、自在に表現していますが、本質的なR&Bグルーブを失っていません。Gallantと同じところにちゃんといるのがすごい。また、この楽器が歌っている感じ、抑揚は、間は、なんなんでしょうか。完全に空間を掌握しコントロールしております。これだけで実力のあるプレイヤーであることがわかります。
ギタリストとして影響を受けたのは?
少々意外かもしれませんがStevie Ray Vaughanを好んで聴いていたそうです。基盤にあるのはブルース。大学で学業に勤しんでいた頃制作した「Nickel and Dime」という作品もアコースティックブルーススタイルの作品でした。
しかし彼はこの頃を振り返り「人々が楽しんでくれるのが好きで演奏していたが、自分が書いている曲に誇りを持っているわけではなかった。」と語っております。その後、今までとはまったく異なるレベルの敬意と誠実さで音楽を書くことを決め、大学も中退。これが2012〜2013年頃。そして2014年にはアコースティックスタイルからは離れ、現在の彼のスタイルに。EP Remnix」と「Remnants」の2枚をIsland Recordsからリリース。
素晴らしいトーン…。レイボーン譲りなのかところどころ”鉄臭い””金属の重み”を感じられるような要素があります。(ブリッジ下のステッカー、足元にはTS9DXが)
おもしろいのはどんな楽器をプレイしても彼の癖が共通しているところ。共通のトーンがあるというか…楽器に自分自身を投影できているこの感じ…よく言う楽器が体の一部になっていると言うか…自在に操っているというか…感服です。
そして2016年デビュー作の「Phase」へと続きます。
本作はイギリスのチャートで初登場3位を獲得。ブリット・アワードで期待の新人に贈られる批評家賞を受賞。またBBCが毎年発表する期待の新人リスト”BBC SOUND OF 2016”でも1位獲得と、UKの新人登竜門である2つの賞をダブルで獲得(過去にはAdele 、Sam Smithらがダブル受賞)、その音楽性は日本国内でも話題を呼びました。FUJI ROCK’16にも出演。
Usagi no mimiで最新作「Love,Death&Dancing」を聴いてみる。
こちらが2020/6/12にリリースされたばかりの最新作です。(一部楽曲は先行配信されてました)
“距離”の使い方が凄まじいですね。近くで鳴ってる音、遠くでなっている音、ググッと近寄ってくる音、スーっと離れていく音。こういった作り込みがサウンドに奥行きを与えています。絶妙です。
プロデュースや共同制作者を気になって調べたらJacknife Leeという有名な方でした。様々な実力派アーティストの作品に携わっているようです。特にビッグネームなのがU2。(2000年以降) あぁ…もの凄く納得。
もうひとつ興味深い点は生々しく荒々しいらしいギターサウンドとエレクトロなサウンドアプローチを”自然に共存させる”ということです。無理がなくひとつの空間に違和感なく落とし込んでいます。Usagi no mimiで聴く場合、こういった部分の質感に違和感があると顕著にわかりますが全く問題ナシ。
あちらこちらにサンプリング/シンセサウンドを飛ばし作られる浮遊感、揺らぎ/うねり感。ドラムとリズムトラックの地下深いところから地鳴りがグワーっと押し寄せてくるかのような感覚。エネルギッシュなギターとヴォーカルに殴られているかのような感覚。たったひとつの楽曲の中にこれだけ多様な要素を盛り込みつつバランスが取られています。何回聴いてても飽きないですね。
楽曲には一癖も二癖もあり、明確にジャンル分けもしがたいスタイルですが、不意に現れるキラーフレーズで一瞬の内に引き込まれます。一見小難しく聴こえますが分解してみると意外とシンプルな構成。幾度にも絡み合う音のレイヤーで奥行きと深みが作り出されております。ギタープレイに関しては下記の動画がわかりやすいです。
この作品の背景ですが…前作「Phase」からなんと4年という歳月が経過しております。「Phase」のツアーを終えた翌年、ニューアルバムのレコーディングを開始。ほぼ完成させるも満足いかずお蔵入り。本人は「あんなのはクソだった。」と振り返っております。前作での成功と名誉ある賞の受賞、次作への期待など相当なプレッシャー状態にあったと思います。精神的にもかなり追い込まれていたようです。
しばらくは作曲することもままならなくなり休暇を取ります。不安と自己疑念と向き合うも自己嫌悪に陥る日々。そんななかマネージャーが彼に紹介したがプロデューサーのJacknife Lee。はじめは会うことさえ気が乗らなかったそうですが…数週間後には共に楽曲制作に取り掛かったそうです。
そして完成したのがこのセカンドアルバム「Love,Death and Dancing」なのです。
最後に
音楽を聴く姿勢や楽曲制作、彼の音楽性に関して問われた時、彼は次のように答えました。
「音楽を鑑賞する方法をよく理解し、分析/解剖していくかのごとく細部まで入り込むのが好きだった。そして何故その音楽が自身の心を動かすかを常に理解しようとしていた。」
音楽の聴き方を改めて考えさせられます。新しい音楽はもちろん、今まで聴いてきた音楽も細部まで入り込むことができれば、違った感動に出会うことができます。心の違う部分を動かされるような…そういった瞬間を体験できれば音楽人生はグッと豊かになっていくに違いありません。
そんなわけでジャックの音楽人生とパーソナルな部分が存分に詰まった最新作「Love、Death and Dancing」。是非Usagi no mimiで聴いてみてください。
渋谷店 ニシキド